「男らしさ」と聞いて何を思い浮かべる?
「男らしさ」「男性的な特徴」「マスキュリニティ」とは、どのような概念でしょうか?体力があること?社会的な力があること?お金を稼ぐ力があること?今回は、そのような規範的な「男らしさ」をすべての男性に当てはめて考えることの危険性について考えてみたいと思います。
その前に、現在語られている「男らしさ」という考え方は、いつ・どのようにやってきたものなのでしょうか。
時代をさかのぼって、平安時代。貴族が権力を握ったこの時代の「男らしさ」とは「高貴であること」でした。その後、武士が支配した鎌倉時代や江戸時代は「男らしさ」が「強い男」そして「戦う男」へと変化します。それは明治時代以降の戦時に引き継がれ、戦後の高度経済成長期には「企業戦士」へと移り変わりました。
社会から求められる「男らしさ」というのは、このように時代によって変容してきたのです。
有害な男らしさとは?
近年、「男だから」「男はこうあるべき」などという固定概念により生きづらさを感じる、と答えた男性が半数にのぼったというデータを元にした報道が増えてきました。生きづらさを感じる人にとっては、規範的な「男らしさ」は有害であるということがわかります。具体的には「男は妻や子ども、家族を養うべき」「男は仕事をして稼ぐべき」という、経済に関するものから「男は泣いてはいけない」「男は弱音を吐いてはいけない」などの精神に関するものまで、多岐にわたります。
子どもの頃、「男だろう」「男ならがんばれ」と言われた経験を持つ、ある自営業の男性(35歳)。失敗したり落ち込んだりするたびに親や教師から言われ、そのたびに嫌な思いをしました。「好きで男に生まれたわけではないのにおかしいですよね。男ならこうあるべき、という呪いのようなものを感じる」と話します。
また、社会人になって始めて付き合った彼女と別れたばかり、というある会社員の男性(29歳)は仕事の人間関係のストレスからか、早漏の症状があらわれ始めました。「セックスに積極的な彼女でした。嫌われたらどうしようとセックスを避けるようになってしまって。別れはそれが原因」。セックスがすぐに終わってしまうと「男のくせに」と言われているようで(実際は言われていないのに)つらかったと思い出します。
そのほか、例えば健康や医療に関することで悩んでいても「男は我慢。薬なんて必要ない」と信じたり、誰かに相談してもそう言われたりして専門機関への相談や医療機関の受診をためらったり。「男はこうあるべき」という概念が肥大化しすぎていると、問題を抱え込んでいるときでも「自分は男だから強くあるべきであり、誰にも何にも助けを求めず自分で解決すべきだ」と考えてしまう危険性があります。そうすることで1人でストレスを抱え、うつ病を発症したり、最悪の場合は自分や周囲を傷つける結果を招いてしまったり、性差別や暴力につながる可能性もあります。実際、男性は女性に比べて自殺件数が多いというデータもあります。
「男はどんな問題でも自分で対処すべきである」という固定概念を打ち破り、問題が起きたら親しい人や専門機関に助けを求めることが重要です。「弱さを見せられる」「他人に頼ることができる」ということは、人ととして「強さ」の現れでもあるからです。
ポジティブな男らしさとは?
いつの時代も「男らしさ」のある男性がモテる傾向はあります。異性からモテるという点においては、内面的な男らしさとして「自分に自信がある」「野心家で志が高い」「決断力や行動力がある」などが挙げられ、また外見的な男らしさとして「筋肉や体の大きさ」「男性性を強調した身だしなみ」などが挙げられます。
そういった「男らしさ」によって自信がもてる、心地よく幸せに過ごすことができるという人にとってそれはポジティブであるといえるでしょう。しかし、それにとらわれる必要は決してありません。
離婚を機に、それまで正しいと信じ実践していた「男らしさ」を振り返って反省したというある経営者の男性(41歳)。そのことを周囲の友人に告白したことで、気持ちがラクになったと話します。「それまでは大黒柱として家族のためにお金を稼ぐことが男の甲斐性だと思っていました。男だからと家事も育児もせず、元妻の気持ちが離れていっていることに気付かなかった」。
「男はこうあるべき」という固定観念にとらわれなくなった男性はネガティブなことも含めオープンに話し合うことができるので、良い人間関係を築きやすくなります。パートナーとなる女性または男性にとっても、良い影響が生まれるのです。
どうすればポジティブな男性らしさを発揮することができる?
ポジティブな男性らしさを発揮するためにはどのような心構えが必要でしょうか。
中国の古典に「謙虚さこそが幸福をもたらす」という言葉があります。謙虚さ、そして同じく大切なのが、誠実さ。
自分自身や自分の大切な人についてよく知ること、また、自分の能力について正確に認知することで、自分の本当の立場と過大評価の危険性を認識することができるからです。
それらが不足している場合、結果的に悪い結果をもたらし、ストレスがさらに大きくなったり仕事に支障をきたしたりする可能性があります。物事をゆっくりと進めることはキャリアにおいても、また精神的および肉体的な健康についても、長期的に役立つ結果となるはずです。